唐木机が欲しい

読んだ本のこと、考えたこと。

知的劣等と絵画 1

僕が高校生の時のこと。

英語の時間、毎回単語帳4ページ分、約40個ほどの英単語の中から、15問単語テストが課されていた。

12点未満は不合格で、学期末になると、不合格のテスト分のページ数、大学ノートいっぱいに単語を練習して提出しなければならなかった。

 

僕は人からやれと言われてやらされるのが大嫌いである。

高校三年間、夏休みの課題を、先生に提出を命じられぬ限り出さなかったくらいである。

怠慢である。

 

そもそも、この単語テスト自体も、やらされるものであるから、受けることすら嫌だった。

テスト勉強をしたくなかったのである。

だが、やり直しノートの提出はなお嫌である。

だから、できるだけ楽に覚えようと努めた。

 

単語の暗記は、高校生の永遠の悩みであり、各自いろいろとやり方を開発し実践しているようである。

殴り書き、単語カード、音読、リスニング等々。

僕は、フラッシュ暗記法という方法を、『東大主席医学部最強学生による超暗記術』的なノリの本で読んで、これはいいぜひやってみよう、と意気込んで少し試したことが在る。

 

方法は、至極単純で、覚えたいページを開いて、瞬きをパチリと何度かやる。

目を瞑れば、ページは見えなくなる。

目を開ければ、ページが見えるようになる。

目をつむっている間に、見たページを思念する。

目を開けて、ページを記憶する。

これをパチリパチリと、文字通り秒速でやるのである。

いわば、カメラのシャッターを目の開閉できろうという発想である。

慣れれば、一閉じでできるようになるよ、と本に書いてあった。

 

僕は、楽がしたい。

できることなら楽して生きたい、こう思うのは人間の性であるから、僕だけが世間様からやじを浴びせられたり、靴を投げられたり、卵を投げつけられたり、こんな風に非難される道理はなかろうと思う。

 

どうせすぐに暗記できるのだから、単語テスト前の休み時間まで一切勉強しないでよかろう、と思い、ノー勉で迎えた英語の授業の前休み。

制限時間は10分間である。

僕は、横だの後ろの席だので、ガリガリとペンを走らせて単語を殴り書きしたり、英単語を発音したりしている生徒を横目に、パチリパチリフラッシュ暗記法をひたすら行う。

このハイブリッドさを見よ、素晴らしい低燃費である、と思い嬉しかった。

 

チャイムが鳴り、小テストが始まる。

お読みになっている方はおおよそ、予想がついていると思うが、さっぱり覚えていなかった。

点数は、2点だったことを記憶している。

 

このあとも、何度もこの暗記法を、時間をかけたり回数を増やしたりと、空風を施しつつなんとか習得しようと頑張ったのだが、結局身につかなかった。

このとき、僕は自分の知性の劣等を確信した。

 

フォン・ノイマンは、本をページごと暗記してしまうという。

友人が試しに、ある小説の冒頭をノイマンに空で読むよう頼んだところ、その友人が制止するまでの15分間、一言一句違わず読み上げたという。

 

ノイマンがつくったコンピュータにもスペックがある。

カブトムシもクワガタも熱帯魚も、僕は繁殖させたことがあるから分かるのだが、やはり大きさや強さに、優劣がはっきりと現れる。

人間だけ、特別とはどうしても思えない。

 

自尊心。

やはり、人はどこかで他人よりも優れたものでありたいあるべきだ、と思うようである。

山月記とか。

 

劣等を悟った僕は、紙にひたすら英単語を書く、暗記法をとることにして、落ち着いた。

知的劣等は時間で補わねばならぬ、と誰かが言っていた。

 

その後の話。

Aというクラスメイトが、英単語テストの前の休み時間に、単語帳かしてくれという。

ノートに覚えるべき単語を書き出している僕は、単語帳は不要だったから、貸してやった。

Aは範囲はどこか、と聞いてきた。

教え奉りけり。

その後、休み時間ののこり8分ほど、Aはじいと単語帳を眺めていた。

 

テスト後、Aに点数を聞いたら、12点だったという。

危なかった、などと言っていた。

見るだけで覚えられるのかと聞いたら、覚えられる、と言う。

いつもこうして覚えている、ふうなことを言っていた気がする。

 

もしも僕が何も感じなかったのなら、こんな些細なこと覚えてはいないだろう。

ここまでは高校時代の話である。

そうして、今、大学に入って、知能を増強するかもしれない秘策を思いついたのである。

何を隠そう、スケッチである。